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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10565号 判決 1971年10月14日

原告 同和実業株式会社

右代表者代表取締役 本間三康

右訴訟代理人弁護士 江口保夫

同 宮田豊司

同 本村俊学

同 古屋俊雄

同 斎藤勘造

被告 保坂豊

右訴訟代理人弁護士 籠原秋二

主文

被告より原告に対する、東京地方裁判所昭和三九年(ワ)第六六二号建物収去・土地明渡請求事件の認諾調書につき、同裁判所が昭和四四年一一月二七日付与した承継執行文に基く強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和四五年一月三一日なした強制執行停止決定を認可する。

この判決は前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告、訴外遠山一郎(以下遠山という)間には東京地方裁判所昭和三九年(ワ)第六六二号建物収去、土地明渡請求事件につき昭和四二年二月一六日付の認諾調書があり、右認諾調書には遠山が別紙目録一、二記載の建物(以下本件建物という)を収去し、別紙目録三記載の土地(以下本件土地という)を明渡すべきことを認諾する旨の記載がある。

(二)  被告は、昭和四四年一一月二七日東京地方裁判所書記官君島二三男より右認諾調書につき原告を遠山の承継人とする承継執行文(以下本件債務名義という)の付与をうけた。

(三)  原告は前記被告と遠山との訴訟の口頭弁論終結前に本件建物の所有権を取得したから遠山の承継人にあたらない。よって、右承継執行文に基く強制執行はこれを許さないとの裁判を求める。

(四)  仮に第一次請求が理由がないとしても、被告の原告に対する、本件債務名義に基く強制執行は次の事由が存し権利濫用で信義則に反するから許されない。

<中略>

二  請求原因に対する認否

請求原因(一)、(二)は認める。

同(三)の前段は認める。その余は争う。

<中略>

三  抗弁

第一次請求に対する抗弁

1  遠山は、被告、遠山間の東京地方裁判所昭和三九年(ワ)第六六二号建物収去、土地明渡請求事件において昭和四二年二月一六日請求を認諾した。

2  原告は、遠山より本件建物の所有権を取得し、昭和四二年一一月一七日所有権移転登記を了した。

原告にとって被告は登記なくして対抗しえない第三者にあたるから原告の承継の時期は登記を具備した時を基準として口頭弁論の終結の時の前後を判断すべきであり、口頭弁論の終結より前に本件建物の所有権を取得したとしても原告は口頭弁論終結後の承継人に該当する。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2の前段は認める。その余は争う。

原告は遠山に対し、本件建物の所有権移転登記及び家屋の明渡請求の訴訟を東京地方裁判所に提起し、昭和四一年九月一二日勝訴判決を得、同判決書が原告に同年一〇月二六日送達されたが、遠山より東京高等裁判所へ控訴したため控訴審に係属することになった。ところが控訴審において当事者双方の不出頭に基く控訴取下の擬制をうけ、原判決は原告に送達後一四日経過した同年一一月九日をもって確定した。よって原告は遅くとも同年一一月九日には遠山より本件建物の所有権を取得したものである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因(一)および(二)の事実は当事者間に争がない。

そして≪証拠省略≫によれば、原告は遠山に対する各貸金の最終弁済期である昭和三八年一〇月一〇日の徒過により本件建物の所有権を取得したものと認められ、これを動かすに足りる証拠はない。

従って原告が遠山から本件建物の所有権を取得したのは前記被告遠山間の訴訟の最終口頭弁論期日である昭和四二年二月一六日以前であることが明らかである。

二  そこで原告が口頭弁論終結後の承継人といえるかどうかについて判断する。

被告は、原告が本件建物の所有権移転登記を経たのは、昭和四二年一一月一七日であり、これをもって承継の時とすべきである旨主張する。

対抗要件を必要とする権利の承継については、対抗要件を具備した時を基準として口頭弁論の終結の時の前後を判断すべきであり、口頭弁論の終結後に対抗要件を具備した者は、口頭弁論の終結より前に権利を承継していた場合でも、口頭弁論終結後の承継人に該当する。しかし前記被告、遠山間の訴訟は本件建物収去本件土地明渡請求訴訟であり、原告は妨害物件である本件建物を譲受けたものであるから、かかる場合には、問題はむしろその所有権の譲受けを介してあらわれる占有の承継にあり、対抗要件の有無は問題でなく、従って右所有権移転の時期をもって口頭弁論の終結の時の前後を判断すべきである。そして原告の右所有権取得が前記訴訟の口頭弁論終結前であることは、前記一認定の事実からみて明らかであるから、原告は口頭弁論終結前の承継人というべく、被告の抗弁は理由がない。

三  以上によれば、本件承継執行文は口頭弁論終結後の承継人に該当しない原告を遠山一郎の承継人として被告に対し付与されたものであり、原告の本訴第一次請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可及びその仮執行宣言につき同法五四八条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田稔)

<以下省略>

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